貴方も今日から、立派な荒らし!

 荒らしの基本は、その場を引っ掻き回して、話題を摩り替え、雰囲気を悪くすることにある。なので、とにかくまず自分以外の人間のリアクションを引き出さなければいけない。一人で喚いていても、匿名掲示板なら荒らす側と釣られる側両方をやる自作自演などもやれないことはないが、人の多いところであればあるほど、一人の作業には限界がある。例えば、B級大作アクション映画が放送されているときの木曜洋画劇場の実況スレッドくらいのレベルの人数・速度の場でバカ正直に自作自演をして荒れさせるのは、並大抵ではない。かと言って、人の少ないスレッドを荒らしても、なかなか反応は得られない。
 では、リアクションを引き出すにはどうしたらいいか。そこを考えることになる。以下に事例を示そう。なお、例としてゲーム関係のコミュニティでの荒らし行為を用いるが、これは筆者がゲーム好きであるため実際にそういった荒らしを見かけることが多く、また状況が一番頭に浮かびやすいからである。

匿名編

  • 貶す

 基本の荒らし行為。とにかく貶す。叩く。最も簡潔なところでは、「クソゲーじゃん」と言えばそれで良い。しかし、それだけではさすがに心許ないので、もう一言付け加えよう。「こんなの、○○の方がずっと良くできてるじゃん」。比較対象を出して、そっちを誉める。そうすると、それを見たファンは反論したい気持ちがむらむらと湧いてくる。「へぇ、今はこんなのでも良ゲー扱いになるんだ」のように、対象作品だけではなくファン、つまりその書き込みを見ている人たちを貶すニュアンスを含めるのも良い。

  • 持ち上げる

 否定的な感想の多い場であっても、ただ誉めるだけでは中々反感は買いづらいので、ここでも一工夫。「○○なんかよりこっちのがずっと面白いよなー」。とにかく比較対象として何か他のものを持ち出し対立構造を作るのは、基本である。その場に○○のファンがいれば、むずむずと反応したくなるだろう。なにかにつけて「○月×日、△△で発売決定!」などと宣伝らしいことをやるのもこのパターン。最後に感嘆符を付けるのが大体お約束のようだ。わざとらしい良ゲー認定・長文宣伝書き込みも、ここに含んでよい。この、「わざとらしい」というのも、大切だ。

  • わざとらしさ

 とにかくリアクションをしてもらわなければ始まらない。なので、如何に「こいつに一言言ってやりたい」と思わせるかが重要だ。そこで、このわざとらしさ。ただ持ち上げるのではなく、例えばいかにも「アンチが信者の振りをしてヨイショしてまーす」という風にやると良い。書き込みの文面自体は好意的、ただその書き込み行為は明らかにネガティブキャンペーン、といった具合だ。ヨイショに対するもの、ヨイショする信者に対するもの、信者の振りをするアンチに対するものと、一度に3つのリアクションを得る機会を作れ、それだけ見ているほうのイラつきも大きくなる。

  • 嘘を書く

 知っている人には即座にばれる、しかし知らない人は言われるまで気がつかない嘘を書く。当然、それが嘘だと分かっている人は、訂正したくなる。「荒らしはスルー」のルールに従って何も書かなければ、知らない人が勘違いをしたままになってしまうのだから、彼らにとってはなんとも悩ましいところだろう。出来ないことを出来ると書いたり、出来ることを出来ないと書いたり。最近良くある、対応ハードが発表されていない・ソフト自体が正式に発表されていないのにさも全て決まったように言いふらすのもこのパターン。宣伝との組み合わせでもある。訂正だけではなく、上に挙げた「わざとらしさ」との組み合わせといて「デマを流すアンチ(信者)がウザい」というリアクションを引き出ことも期待できるので、中々お得であると言える。嘘ではなくとも、限定的な不適切動作をいつもそうであるかのように言う誇張もこれに含んでよいだろう。また逆に、本当のことを言っている人に対して、あいつこそアンチで嘘をついているのだとレッテルを貼るやり方もある。

  • 鬱陶しく

 これは少し変則。これで引き出すリアクションは、書き込みではない。「このスレッドには来ないほうが良いな」「もう来たくないな」と思わせ、そのコミュニティの健全な住人を減らすのが目的になる。具体的には、発売したばかりのゲームのネタバレやAAを、長い時間ずっと書き込み続ける。ネタバレを見たくない人はせっかく同好の士と語らいたくとも来づらくなるし、また大きく目立つAAはいかに機械的な乱発でも目障りで鬱陶しい。ただ、特定の文字列に反応して書き込みを非表示にするような荒らし対策が施されている環境だと、効果が著しく減じてしまうため、微妙に文字列や書き方を変えていくつものパターンを作るNGワード対策をしなければいけなくなり、またその文字列を変えるための「頑張り」が見ている人にも分かってしまうので、相手をイラつかせる前に呆れられることにもなりえ、具合がよろしくない。とは言え、その失笑振りを荒らし非難としてここぞとばかりに書き込む人が多くなれば、結果として荒らし行為は成功したとも言える。

ニコニコ動画

 ニコニコ動画のコメント欄における荒らし行為。基本は目立つこと。盛り上がっている動画であればあるほど、大量のコメントが一度に表示され、埋もれてしまう。文字は大きく。色つき。流れないよう、位置固定にするのが良い。ニコニコ動画には現在はIDによるコメント非表示機能があるが、見ている限りこの正攻法でもまだまだ効果は大きい。

 ニコニコ動画の、個々の動画におけるタグの荒らし行為。一番分かりやすいのが、全てのタグを消してしまうこと。検索で引っかかりづらくなるし、ネタタグを付けるのが好きな人・ちゃんとしたタグが付いていないと落ち着かない人にとっては鬱陶しいことこの上ない。わざと関係のないタグを加える方法や、ネタではないちゃんとした関係のあるタグを消してしまう方法もあるが、タグは動画投稿者が4つロックできる以外は視聴者は誰でも削除・登録が可能なので、荒らしとしては登録よりも削除機能を利用して全て消してしまう方が手間もかからず、良いように思う。無論、有用なタグが全て動画投稿者によってロックされているとなると、これは通用しない。

 ニコニコ動画の、個々の動画におけるニコニコ市場登録商品の荒らし行為。まったく関係のない商品を登録する、というのがすぐ浮かぶが、これはあまり見ないように思う。露骨で芸がないということだろうか。むしろ、わざとらしくあれもこれもと宣伝するほうが多いようだ。登録数に上限がある上、タグと違って登録者自身でしか削除ができない(と言うことになっている)ため、「これは外せないだろ」という関連商品が登録される前に、それ以外のより関連性の薄い商品で空いた登録枠を埋め尽くしてしまうと言う手もある。

 ニコニコ動画の、動画投稿を使った荒らし行為。言うまでもないが、動画のタイトルと投稿者コメントは投稿者が自由に設定できる。他にも、タグは4つ、ニコニコ市場登録商品は2つまで動画投稿者がロックできる仕様だ。なので、そこでは何でもできる。先の挙げた全ての方法を、邪魔者無しで実行できるわけだ。ヨイショ・宣伝はやり放題、デマは言い放題。ニコニコ動画独自のものとしては、一番多いのは、シリーズモノの動画にそっくりなタイトルをつけて検索で引っかかるようにすること。また、注目のタグを片っ端から投稿者コメントに書くやり口もある。同じく、検索で無関係の動画まで引っかかってしまうようにするのが目的。ただし。ニコニコ動画は利用者全てにIDが割り振られているので、あまり悪質なことをやりすぎると、ろくなことにはならないことは覚えておこう。

非匿名編

 実名、というわけではなく。ただし、完全な「名無し」でもない状態での荒らし行為。ユーザーごとの固定IDのあるニコニコ動画での荒らし行為も、これに含まれると考えて良い。特に「あ、この人か」と分かるシリーズモノを投稿をしているものが、これに当たる。投稿者コメントから見て全て同じ人だと思われる、トレーラーの投稿などだ。また、ブログなど個人サイトも同じく。基本的には、それほど大逸れて間違ったことは言わない。いつも頓珍漢なことしか言わないのでは、そんなもの皆最初からネタとしてしか見ない。普段は、それなりにちゃんとしたことを言う人・ちょっとズレた人という程度に抑えておいて、ここぞというところで、デマや噂を誇張して扱うのである。「普段ちゃんとしているんだから、そう軽々しく嘘は言わないよな」と言う印象を利用するわけだ。目論見どおりに行けば注目が集まり、つまり嘘もすぐバレるわけなのだが、そこはそれ、完全に事実無根な創作話はしないようにしよう。あくまで伝聞として、「俺も勘違いしちゃったよ」くらい。自身の信用性が高いと思うのならば、「あくまで噂だけど」とはっきり断っても良い。それでも十分に効果は発揮される。ただし、それでもやるごとに確実に信用は下がってしまいそのたびに時間をかけて回復する必要があるため、やるとなるとかなり根気のいる作業と言える。荒らしを目的とした行為と言うよりは、自分のウェブサイトで嫌いなものを叩いた・好きなものに都合の良い噂を誇張したことが結果として荒らし行為になるといったような具合だろうか。

  • ネタにマジレス編

 上で少し触れた「いつも頓珍漢なことしか言わないのでは、そんなもの皆最初からネタとしてしか見ない」の応用。ネタの中に本気っぽいことを紛れ込ませる、もしくは叩きネタをネタっぽく仕上げて出す方法。単純に叩いているだけだと初めから同じスタンスの人しか集まらないため、自分が叩かれる側の人間であるかのように見せ、自虐として展開するとよい。ネタとして面白がられることで、うまく行けば単純に叩く行為よりもずっと注目度を稼げるのが利点。その代わり、見た人に「ネタに本気でリアクションしてもしょうがない」と思わせることで角の立ったリアクションが得にくくなるという欠点もある。場を荒らすと言うよりかは、叩きに繋がりやすい話題をより多くの人に広めることを目的とする行為である。面白いネタとして見せる技術が必要になるため、狙ってやるにはかなり難易度は高い。



 以上である。熟読し、貴方も今日から立派な荒らし。に釣られないよう心がけよう。