違う客層のハードに迷い込む、もとい殴り込んでみることの意義

 『リッジレーサー6』から始まり、『ビューティフル塊魂』、『エースコンバット6』、そして『テイルズオブヴェスペリア』。このあとも『ソウルキャリバー4』があるし、他のメーカーでも『アーマードコア4』や『真・三國無双5』や『デビルメイクライ4』とかがある。プレイステーション2でお馴染みだった人気シリーズで「次も当然プレイステーションプレイステーション3オンリー!」と思う人の多かったであろうタイトルが、マルチプラットフォームになったり、他機種で発売されたりする。
 海外での売り上げを考えれば当然、ではあるのだけれど、逆に言えば、日本でXbox360版を出す意味がどれほどあるのか。コナミは『サイレントヒル5』を、海外ではプレイステーション3Xbox360、日本ではPS3だけで発売すると発表しているけれど、これはとても分かりやすい。不満に思う人もいるだろうが、でも誰にでも分かりやすいには違いない。「売れないから出しません」。そりゃそうだ。
 売り上げに加えて、ユーザー層の違いがある。Xbox360で最も売れたソフトは旧来型のRPGである『ブルードラゴン』らしいが、ネットのコミュニティを見ていると元気なのはアクションゲームだ。よくソフトを買いXbox360を支えているのはその辺の人らだろう。それを反映するかのように、やたら海外のFPSが出る。本当にこれがマイナーハードなのかと思うくらい、海外からのおこぼれだけで溺れ死ぬくらいの勢いで出たりする。そんなユーザー層のハードで、さてプレイステーション2で人気だったシリーズを出していかほど売れるのか。どれだけの人が興味を示すのか。まー、DSの最初の2〜3年くらいなんかを見ると、どうやらゲーム業界と言うのは「そのハードのユーザーの嗜好に見合ったソフトを作って出す」というのがとても苦手、もしくはただ安直に既存シリーズの続編や外伝を出して即自滅なんて間の抜けたパターンを踏むのが大好きなドM揃いらしいというのが分かるけれど、それにしてもと思うことは多い。


 多かった。最初は俺も「なんでこれXbox360で出そうと思ったんだ」みたいなことずっと思ってて、今でもよく思うけれど、まったく意味が無いわけじゃあないのだよな。いやマイクロソフトと契約で云々みたいないかにもその手の人らが好きそうな推測ではなくて、ユーザーに対するアプローチとしても意味はある。ほんの少しだけど。
 『エースコンバット6』とか『デビルメイクライ4』発売するとき、勿論そのときも俺はXbox360関連のコミュニティを覗いてたわけだけど、「今までこのシリーズやったことないけど、出るんなんらやってみるわ」って人が結構いたのよな。『ブルードラゴン』や『トラスティベル』や『ロストオデッセイ』でも「普段RPGやらないけど〜」て人がいた。もしああいうソフトがプレイステーション3で出たとしたら、そう言う人らはそのソフトのためにPS3買ったりは勿論してなかったわけだ。プレイステーション2時代にもやらなかったくらいだし。既に持ってるハードで、Xbox360でソフトが出たから、彼らは手を出してみた。そりゃあ、プレイステーション3で出た方が、売り上げの数字はずっと上だったろう。でも、「これがエースコンバット初体験なんですよー」みたいな人は、まぁそれでもPS3版の方が多かったろうけれど、それでも、新しい人を呼び込むという意義は、確かにそこにある。


 シリーズの悩みどころは、前作をどう継承するかにある。シリーズなのだから、当然できるだけ多くのものを前作から受け継ぐべきだろう。そうすれば前作のファンも買ってくれる。でも、前作が好きだった人の抱く期待は、ハードルが高い。そして、前作のファンと一口に言っても、どこを面白いと感じたかは人それぞれだ。さらに、長く続ければ続けるほど、ファンの求めるハードルは上がり、注文も細かくなってくる。だから、続編を出すごとに、ぼろぼろと零れ落ちていく。よく出来ていたとしても、毎度同じようなことばかりでは飽きも来る。「1作目は良かった」「2までは面白い」「4からはもう別物」。シリーズモノを語ると、どんなゲームでも必ずそう言う人たちが出てきてしまう。
 かと言って、いたずらに変更点を増やすと、今度はファンの人たちが「これじゃ別物じゃないか」と離れてしまう。それを補うだけの新規ユーザーが来ればいいが、そううまくはいかない。今までと同じシリーズタイトルを冠するから、今まで興味がなかった人はまた同じようなものだと思ってしまって中々寄っては来ない。そして旧来のファンの批判や落胆の声だけがあちこちを巡り巡って、ますますイメージは下がる。売り上げも下がる。そして最後に、「原点回帰」とか言い始める。
 とにかく、どこかでどうにか新しい人を入れなければいけない。ファンを同じ人数だけずっと維持し続けることなどできやしないのだから、それ以外の人を常に補充し続ける必要がある。以前からのファンをできるだけ減らさないで、でも今までと違う人たちにアピールできるものがいる。今まで振り向いてくれなかった人を振り向かせるものを。さてどうしよう……。
 やり方は色々あるのだろう。『バイオハザード』は思い切ったシステム変更で『バイオハザード4』をリリースして成功し、見事に持ち直した。『ファイナルファンタジー』は、タイトルは同じでも中身は前作と違うのがいまや当たり前で、シリーズとしての一貫性などはもはや誰も気にしない。しいて言えば、「新しいこと」「すごいこと」がファイナルファンタジーだ。システムでもキャラクタでもシナリオでも音楽でもない。


 そういったさまざな方法のうちのひとつが「別のハードで出してみる」だ。ユーザー層を思いっきり別のところに移してしまう。ま、実際にはハードを変更するのはさまざまな複雑怪奇な事情によるもので、ユーザー層の変化はあくまで「その結果として」という程度なのだろうけれど、でもそこに何の意味もないわけじゃない、何も生まないわけじゃあない。それまでと同じハード、その後継機で出し続けていては、ジリ貧になってしまう。手っ取り早く稼ぐ方法ではあっても、長い目で見ると必ずしもありがたい状況ではない。そこでハードを別にしてしまう。今までと違うユーザーの人に売り込んでみる。マイナーハードではソフトが少ないから埋もれにくいし、有名シリーズの新作が出るとなれば大ニュースだ。他機種からの後発移植ではなく最初に、もしくは同時に発売となれば、「え、人気ソフトなのに、こんな売れてないハードで出しちゃっていいの? マジで?」という物珍しさも大きい。
 「次はあのハードで出るだろう」と間違った予想をしていたファンの人たちを遠ざける効果もある。幾らファンと言えど、よっぽどでなければ、わざわざそのためだけに別のハードを買いはしない。だから、ハードルが少し下がることもありうる。せっかく新作が出るのに遊べないことを不満に思ってファンは散々に愚痴をこぼすだろうけど、あとで「完全版」として移植して発売すれば、そういった不満もなぜか最初からなかったことにして貰えたりする。万が一その新作がうまくいかなければ、ファンとメーカーの間で暗黙の了解としてソフト自体を「なかったこと」にしてしまいやすいというメリットすらある。素晴らしい。万々歳!


 という冗談は置いといて。実際いいんじゃないかと思うんだよね。売り上げのこと考えたら、というか普通の感覚なら、せっかく待っててくれてる多くのファンを放り出して興味を示してくれてないユーザーばっかの別ハードで出すなんて真っ平ごめんだろうけど、でも、新しい人を引きずりこむのも大事じゃん? 同じものを同じ人たち相手に売り続けるだけじゃ、やってけないんだもの。どこかで何か「違うこと」をやらないと。なら、せっかくマイナーハードで出すことになった事態を、利用すればよい。渡りに船。メーカーにとっては、今まで縁のなかった人に見てもらうチャンス。「たまにはこういうのもどう?」とアピールするチャンス。ユーザーの方も、今まで手を出してこなかったジャンルに、新しい楽しさを見つけられるかもしれないチャンス。
 てな風に考えれば、マイナーハードでソフトを出すのもそんなに悪いことばかりじゃないと思えるので、そう言うことにしたほうがいいんじゃねーかなぁ。「上から言われて仕方ねーから作ってやったよ」「マイナーハードのユーザーなんか知ったこっちゃねぇよ俺のゲームにはもうたくさんファンが付いてんだから」みたいにやる気のなさを丸出しにしながら自分は上から目線で笑ってるつもりが実際には笑われていることに気が付かない可哀相な人になってしまうよりかは、ずっと建設的で前向きでよろしい。そんな人がどこかに本当にいるのかは知りませんけどね。知りませんよ。