みんなで幸せになろうぜー

 『アイドルマスター ゼノグラシア』で何人かのキャストが変更される、という情報が最初に出たときは、ゲーム版のファンからは「どうせなら全部入れ替えてくれれば別物として見られるのに」という声が聞こてきたのだが、その後本当に全キャスト入れ替えが発表されると、「これで諦めも付く」と言うどころか「完全に別物にしやがってふざけんじゃねーよ」という憤慨の声一色になって、それを聞きつつ「お前らついこないだ自分で言ったこと忘れたのかよ勝手な奴らだなオイ」ってなことを思ったものだったが、今はなんかちょっと彼らの気持ちが分からないでもない。

『東京魔人學園剣風帖 龍龍』公式サイト
 「龍龍」は一体なんと読むのかさっぱり分かりませんが、とりあえず明日から放送開始。
 プレイステーションで出た『東京魔人學園剣風帖』のアニメ化なのだけど、まぁこれが恐ろしいくらいに違う。ゲーム版の公式サイトがもうないが、Wikipediaで基本情報を仕入れられはするのであとは知りたい人は各自検索でもしてもらうとして、まぁ、手っ取り早く違いが分かりたければキャラクターデザインを見比べてみるのがいい。ゲーム版の絵はかなり癖が強く確かにそのままアニメ化するのが無謀なことはゲーム版のファンも重々承知だろう。しかしいくら手を加えるといっても、こうまで別人にすることはない。メインの5人もだいぶイメージが変わっているが、それ以外のキャラクタはもっとひどく、遠野杏子と九角天童に至ってはもはや名前を言われないと誰だか分からない。


 さて。「他人の振り見て我が振りなおせ」と昔から言いまして。自分がやられて嫌なことは他人に対してしてはいけない、なんてことも、小学生の頃から皆さんよく親や先生に言われていたのではないでしょうか。


 自分はゲームの『アイドルマスター』には何の興味も思い入れもないから、『アイドルマスター ゼノグラシア』がどんなにゲーム版から変わっていようと全く気にはしない。それどころか、面白いロボットアニメが見られるのならそれでいいじゃないかと思うわけだ。アニメはアニメで面白いものならそれでいいじゃねーか。そんなに嫌ならゲーム版のファンは見なければいい、黙ってろ、失せろ。いちいちケチつけるためだけに見て、アニメの話題で盛り上がっているところに水をさしに来るなバカ。はっきり言って、そう思う。でもこれが『魔人学園』の場合だと逆になる。自分は今度は、水をさす側になるわけだ。これはよろしくない。大変によろしくない。人間として問題である。
 原作(と名目上なっているもの)が好きであればあるほど、アニメ版がそれとかけ離れすぎているのは納得できない。これは、アニメ版の出来不出来と言う問題ではない。ゲームから入ったファンは「そうじゃないだろ」とアニメを見て落胆し、アニメから入ったファンは違いすぎるゲーム版には恐らくほとんど還流しない。これでは、わざわざゲームを原作としてしてアニメ化することに何の意味があるのか。自分の好きな作品が無残に改変され、しかもその改変をするだけの意味がどこにも見出せない。そりゃ腹も立つってもんである。
 でもだからと言って、「お前らの見てるアニメ版なんてクソに決まってる」なんて、アニメを楽しんでいる人たちに対して言うことではない。重箱の隅をつつき揚げ足を取ってこき下ろし「ほうらやっぱりアニメ版はクソ、素直にゲームをそのままにアニメ化すればよかったのに」などと大人気ない憂さ晴らしはするべきではない。アニメの視聴者は別にゲーム版に悪意があるわけじゃあなく、ただ、「このアニメは面白そうだ」と思ったから見ているだけだ。「俺はゲーム版を味噌にされてむかついたから、あいつらにも不快な思いをさせてやるんだ」なんて邪念はとっとと捨て、いい年したオタクならば、「そんなに面白いってんなら俺もアニメ版楽しんでやろうじゃないか」と思うだけの分別と前向きさがあっていい。楽しくなかったのなら無かったことにすればいいし、楽しめたならそれは良いことだ。皆が幸せになれる。相手はゲーム・アニメ作品であって意思を持った人間ではないのだから、嫌ならこっちから無視をすれば関係は簡単に断ち切れるのに、わざわざ粘着してなにかにつけては悪口雑言を垂れ流すのがオタクの悪いところだ。無理に好きになることはないが、嫌なら別物だと思え。ないものと思え。思えるだけの精神力を持て。スルー力と言ってもいい。


 『東京魔人學園剣風帖 龍龍』と『アイドルマスター ゼノグラシア』が、スルー力のない、気持ちの悪いオタクに踏み荒らされなければいいなと、今は切に思う。アニメ肯定派とゲーム至上派が苛烈に煽りあったところで、どっちにもいいことはないだろう。シーソーのように相手が下がれば自分が上がるというものではないのだ。どちらも堕し、アニメもゲームも「気持ちの悪い信者どもがなにかと五月蝿い作品だった」というありがたくない評価を貰って幕が下ろされ、記憶される。そんなの、もうみんな泣くしかない。


 まぁ、どちらの作品もそれ以前の問題として、果たしてアニメは出来が良いのか悪いのかというとっても大事なことがあるのだがね。悪ければ、もうそこでみんな泣くしかない。どうしようもない。そのときは怒っていいはず。