今見えるPS3

 コンピュータだコンピュータだと言ってみたところで、ゲーム機なんてそれこそファミリーコンピュータの時代からまさしくコンピュータだったのであって、ゲームと言う用途に使われるからそれがゲーム機と呼ばれているというだけのこと。ゲーム機ではないのだと言うならば、ゲーム以外の使い道を示してもらわないことにはどうしようもない。ユーザーが聞きたいのは「スペック的に何ができるか」でも「社長は何がやりたいか」でも「将来的に何をしたいか」でもなく、ましてや「価格が高いことの言い訳」でも「脊髄反射的に幹部たちの口から紡がれる妄言」でもなく、「実際にプレイステーション3を買ったら、何に使えるのか」だ。ゲームが出来る。DVDとブルーレイのビデオが見られる。SACDが再生できる。無線やメモリースティックを介してPSPとの連携ができる。他に何が出来て、出来ないのか。今後もっとスペックアップしていきたいと言われたところで、まだ最初のバージョンすら発売もしていないのに、誰がそんなビジョンを鵜呑みにすると思っているか。「やりたい」と言うだけならば、社長じゃなくても下っ端社員の親戚の小学生でも連れてくればいい。その子供に「こんなことが出来たらいいなぁ」とPS3でやりたいことを語らせるほうがよっぽど聞き甲斐がある。
 絵に描いた餅は食えやしない。もしかしたら、ただ単にまだ発表していないというだけで、しっかりと裏では臼と杵ともち米が用意されているのかもしれない。でもそんな舞台裏の話をユーザーは分かるわけないし、仮に実現すると考えても、言うほど美味しそうな餅には思えない。まず美味しそうだと思わせなければ、誰も金は出しやしないのに。


 そんな今はまだ社長の頭の中にしかないような薔薇色の未来像は放っておくとして、今見えているPS3に関して言えば、どうだろうかと。
 値段はもう、どう考えてもありえない。スペックを考えれば、なんていう前置きをつけなきゃ納得もさせられない時点でどうしようもない。だいたい、ゲーム機として見るにしてもビデオプレイヤーとして見るにしても、消費者がそれを買う目的はソフトにあるのであって、ハードのスペックばかり自慢されても意味はない。こんなすごいゲームが遊べるのは高性能を誇るPS3だけなんですから是非買うべき、とアピールすべきなんであって。まぁこの辺は、ちゃんと見せられるソフトがまだろくにないという事情があるようだから仕方がないともいえるが、ソフトの製作が遅れていることの原因はハードの製作の遅れにあるわけなので、自業自得か。
 そんな高価格化の原因がどこにあるのか、素人の自分には分からない。Cellなのか、ブルーレイディスクドライブなのか、その両方か。ただ一つ思うのは、次世代DVDの採用は、これはやむなしと言えるのじゃないかということで。テレビ放送がデジタル化で高画質になり、テレビも液晶やプラズマ画面の普及で高画質化している。となればテレビに繋がれ表示される映像メディアであるところのゲームも、それに歩調を合わせることになるのはそれほど不自然なことではない。さらに次の次世代機器プレイステーション4(仮)が出るのがおよそ5年後になることを考えれば、今はまだ尚早といえどもDVDを上回る大容量メディアに対応しておくことは、決して間違ってはいないように思う。今までどおりゲーム中に入るであろうムービーシーンを高画質化するだけでも容量は肥大化するのだから、DVDでは容量が足りなくなることは十分に考えられる。勿論、DVDを複数枚組にしたり、HDDにインストールして遊ぶようにするなどの他の解決方法もある。だが、DVDを複数枚にすればディスクの入れ替えの手間をユーザーに負担させることになるし、インストールは肝心の最初のプレイの前に数分なり十数分なりユーザーを待たせることになる。結局どの方法をとっても何がしか負担になるのだから、それならば、コストは高くなっても新型メディア対応ドライブを搭載することで、購入時の支払い一度だけの負担で済ませるというのは、それほど悪い解決法ではないだろう。
 と言ってもやっぱり、そのせいで値段が予想をはるかに超えて高くなってしまっていては元も子もない。既に価格も構成も発表されてしまった以上は後戻りも出来るものではないが、ああもう、なんだってこんなバブル懐古丸出しな商品にしてしまったのか。いくら人気シリーズを囲っても、どんなに高性能を誇っても、結局はそこに戻ってきてしまう。高い。それを多少なりとも払拭するにはやっぱり、その値段に見合うだけのすんごいゲームがいろいろ遊べますというソフトウェアのアピールをもっと必死こいてすべきであるわけなので、お願いだからあの社長とかもう二度とマスコミの前に出さないで欲しい。消費者が金払うのは「その製品で出来ること」に対してであって、あれをしたいこれをしたいという製品開発者の妄想を聞かせてもらうためじゃあないんです。どんなに得意満面で吹聴して見せたところで、それを信じてもらえるほどの信頼が今のソニーにはもうないことも自覚して欲しい。せっかくつけた火には油を注いでください。薪をくべてください。泥水をぶっかけて消火しちゃってどうするんだよ。いろいろできるって言うならば、その「いろいろ」の中の一つでもあるゲームもしっかりアピールしなきゃダメだろうが。例えゲームが規格普及やその他の構想のための釣り餌だとしても、いや釣り餌だからこそ、それがどれだけ美味しそうであるかをちゃんと消費者に見せなければ意味がない。
 もうほんっとさぁ、頼む。ソニーと言う会社は好きじゃないし、将来的にPS3で何ができるかなど一切興味はないけども、ゲーム機としては普通に期待しているので。全力で釣りに来てくれよ、待ってるから。