『火星年代記』を読んだ

火星年代記 (ハヤカワ文庫 NV 114)

火星年代記 (ハヤカワ文庫 NV 114)

 火星に人類が移住するようになった未来を描いたSF小説、なのだけれど、作中の年代が2000年代初頭、つまり今。というか、ちょっと前。2005年とかですよ。年表順に進んでいくオムニバス短編なので、いちいち日付が目に入ることになって、未来だけど過去の話という、なんだか奇妙な具合になってしまった。まぁ、なんたって60年前に書かれた本だから、「2000年あたりには火星くらい行ってるだろ?」とか思われててもしょうがないですけどね。
 とは言え、アメリカの大統領が「2030年には火星に行く」と言った年にこれを読むというのは、タイミングとしてはそう悪くは無かろう。ただこうなると、SFの昔の人たちの中には、冷戦時代の宇宙開発競争に触れて「ロマンがなくなる」と嘆いている者もいたというのが、分かる気がする。現実として目の前に出て来られると、こう、なんだか、興ざめと言うか、これまで大事にしてた夢を一つ失ってしまった、みたいな。もし今この状況でこの『火星年代記』と同じような題材を持って小説が書かれると、どういう内容になるのだろうな。