不思議

 こないだ大学に行く途中、公衆電話の前で受話器を握ったおばさんに「あのぅ、すいません」と声をかけられた。はっきりとこちらに顔を向けて話しかけられたら無視するわけにもいかず「どうしました?」を応じたのであるが、返ってきたのは「受話器を置いてくれませんか」。聞き間違いかなと思って一度聞き返してみたが同じ返答だったので、彼女の手から受話器を受け取って電話機本体へと戻すと「どうもありがとうございます」とお礼を言って彼女は去っていった。こちらも大学へ行く途中だったので、とっととその場を離れて駅へ向かったわけであるが、あれは一体何だったのだろう。腕が上がらず受話器が置けないということはありえないでもないが、だとすればなぜ彼女は既に受話器をつかんでいたのかがよく分からないし、持った受話器をこちらに示した腕はどう見ても自力で置ける程度の高さには上がっていた。うぅむ。


 数年前、同じ場所で身体障害者の方に声をかけられたことがあった。足が曲がって一人ではうまく歩けないようで、「駅の改札まで手を引いていってくれないか」と頼まれ、自分も駅に行く途中だったし改札まではせいぜい百数十メートルもなかったので承諾して送ったのであるが、その声をかけられた場所というのはすでに地上から何段か階段を下ったところにあり、駅はデパートのまん前にあって最も近い住宅からも数百メートルは離れている。人の手を借りないとうまく歩けないとするならば、あの人はその場所まではどうやって来たのだろう。分からない。


 頼みそのものは無茶ではないし、断らなきゃいけない理由もなく、他人の役に立てるなら嬉しくないものでもないが、どちらもシチュエーションが腑に落ちず、すっきりしない。そういう場所なのだろうか。はて。