PSP

 どうなのだろう。不良問題やゲートキーパーもそうそう流せるほど軽いものではないが、やっぱりそれ以前の問題があるハードなんじゃないかという気もする。

ゲーム機として

 世間だと同じ携帯機ってことでニンテンドーDSと比べられがちだが、ゲーム機として最大のライバルになるのは実はプレイステーション2なんだよな。PS2並のスペック、PS2並のソフト開発費、開発のノウハウもPS2のものが転用可能。SCEとしてはそれが売りになるはずだったようだが、ソフトメーカーから見た場合、その環境でソフトを作るとして、対応ハードにPS2ではなくPSPを選ぶ理由がどこにもない。またユーザーから見た場合は、PS2でもやれるソフトの劣化版(宣伝文句はともかく実際には同等性能と言えるものではないし、さらにバッテリーなどの問題も付きまとう)をわざわざ2万円する新ハードを買ってまでやろうと思うかどうか。言うまでもなくPS2ユーザーは世界で最も多いわけで、その大半はこの時点ではPSPを買う理由がない。

動画再生機として

 じゃあゲーム以外の機能はどうかというと、UMDで映画というのは悲しいかなもう論外。ただでさえPSP専用メディアであるUMDなんぞでわざわざ映像作品を出したがる会社があるわけもないのに、同じソニーグループ内に映画配給会社があってすら本体同発で一本も出せてないのは大失策。かと言ってユーザー個人でのUMDへの書き込みも出来ない。その点、ポータブルDVDプレーヤーならば対応するDVDソフトは既に有り余るほど出ているし、PSPより大きな液晶画面のものが同程度の価格で買える。そしてDVDならば、環境をそろえたパソコンがあれば個人でDVDへの書き込みができてしまう。
 メモリースティックで動画という手があるが、個人でやるとするとDVDと同じく環境の揃ったパソコンとコピー用のオリジナルの映像ソースがいるし、会社がビデオとして出すにはメディア単価がDVDに比べてあまりに高過ぎる上に、UMD同様にソニー以外には何らうまみがない。

音楽再生機として

 iPodよりは安いからと前向きに取るとしても(あれだけブランドとして確立された今となっては、正直この仮定の段階で既に無理はある)、若い世代なら、2万円あればもう少し上乗せしてでもその手の機能が付いた携帯電話への機種変更をすることも考えられる。それにいくら価格で優位であっても、動画再生機としての売りであったあの大きな液晶画面が今度は邪魔にしかならず、その液晶搭載に伴って大型化した本体は携帯用音楽再生機としては致命的。

なんだこれ

 非常にアレ。動画やmp3の再生は個々の機能として見ればそれなりに価値がある。それを付加価値として付けるならば意味はあるが、それぞれの商品コンセプトは必ずしも方向性が一致しているわけではないので、メインの機能と合わないものはちゃんと切捨てなければならなかった。方向性の一致も考えず全ての機能を同格の扱いにして片っ端から詰め込んでいては、せっかくの魅力的な機能が互いに殺し合い、付加価値としての価値すらなくなってしまう。
 独自規格への執着は、もう、ね。商品が売れなきゃ規格は普及しない。まず「どうやったら売れるか」から考えなければいけなかった。PSPに限らないが、ソニーは「当然これは売れる、だから……」という根拠のない前提から商品設計がはじまってやしないか?

 PS2の成功をそのまま引き継ぐのならPSやPS2との互換機能を付けておけば、それこそ「すべてのゲーム! を持ちあるこう」のコピーに違わず持ち運び用PS2として使えたし、加えてDVD-Videoの再生も出来たのが(これはこれで出したばかりの薄型PS2とコンセプトに若干被りがあり、少々困りものではある)、なまじ携帯性にこだわって12センチのディスクを捨ててしまったがゆえにそれも無し。せめてPS2の小型モニター兼コントローラとして使えるのならば薄型PS2との連携を押し出して売り出すことも出来ただろうが、この道もボタン数の関係で既にありえず。

 もうホント、なんでこんな製品が出たのかとても不思議。NDSがどうとか不良問題がどうとかサポートがどうとかゲートキーパーがどうとかじゃないんだよな。どこから見ても死角しかない。とにかく片っ端から独自規格を推そうとする会社内部の都合と、過去の成功にしがみ付いたトップの妄想と、そのトップの周りに群れるイエスマンの三本柱で出来上がったようなハード。珍しそう・目新しそうなものと見るととりあえず買っておくようなAV機器マニアやゲーム機マニアしか相手にならない。それはそれでニッチながら立派な市場だろうが、それでも各機能における競合商品が多すぎて、とりあえず発売の勢いで本体は買ってはもらえても、その後どれだけ活用されるかはかなり怪しい。
 それとも、なんだ。どうせ撤退するなら死なばもろとも、据置き機での性能競争を持ち込んで据置きと携帯で住み分けしている今の市場を滅茶苦茶に壊してやる、ということか?